損害賠償について
あなたが人身事故の被害者になってしまった時、加害者に対してどのような請求ができるのかを知らなければ、何も請求もできませんし、請求しなければ相手は払ってはくれません。
人身事故とは、人が怪我をした事故のことで、人身事故では損害賠償ができます。
もしあなたが人身事故の被害者になってしまった場合、
- 自動車損害賠償保障法 3 条
- 民法 709 条 の不法行為
に基づいて、加害者に対して 損害賠償請求 をすることができます。
人身事故に遭った際に、被害者 が 加害者 へ請求できる損害は、大きく4つあります。
- 積極損害 ( 治療費など )
- 消極損害 ( 仕事を休んだ分の損害 )
- 慰謝料 ( 精神的・肉体的苦痛に対する損害 )
- 物損 ( 壊された物に対する損害 )
1.積極損害とは
交通事故で怪我をすると、病院で治療を受け、場合によっては入院をすることになりますが、その際に 被害者が支払った費用や、今後支払うことになる費用のことを積極損害と言います。たとえば以下のようなものです。
- 診察費用 ・ 治療費用 ・ リハビリ費用
- 手術費用 ・ 入院費用 ・ 入院雑費用
- 付添看護料 ・ 介護費用
- 通院交通費 ・ 通勤交通費
- 葬儀費用
また、医師の指示があった場合は、以下の費用についても認められます。
- 針灸 ・ マッサージ ・ あんま費用
- 形成治療費
- 温泉治療費 ( 医療機関付属施設のみ )
- 義足 や 車椅子 など治療器具の購入費
これらの費用を既に支払った、あるいは今後支払うことが確実であるといった場合に請求することができます。
基本的に請求出来るものは決まっていますが、何が請求できるのかは専門家でなければわからないことが多いです。
そのため、専門家に相談するまでは 「事故にあわなければ支払う必要のなかった費用は全額請求する」というつもりでいれば請求漏れはないと思います。
具体的には、車椅子の生活を強いられることになり、玄関や風呂場、トイレなどを改装する必要が出てくれば、これらの費用も請求できることもあります。
また、扶養家族のいる方で交通事故によって子供の学費が払えなくなった場合などは、その費用を請求できる場合もあります。
つまり、交通事故の被害によって発生した費用であれば、治療費以外のものでも請求が認められることがあるのです。
ですから、領収書などは示談が成立するまで必ず保存しておくようにしましょう。要不要の判断は専門家にゆだねて、取り敢えず交渉してからで良いと思います。
判断基準としては、「必要かつ妥当である」という点です。いくらあなたが必要と判断したからといって、なんでもかんでも請求できるということではないということです。逆に不要と思っても、請求できる場合もあります。
このあたりの判断は専門家でなければ難しいです。弁護士などに相談してみましょう。
また、請求する際は 領収書 が必要となりますので、治療や通院で受け取った領収証などは全て保管しておきましょう。
注意したいのは、レシートや領収書には感熱紙が使われてる場合があり、時間経過とともに薄く消えてしまったりすることもある点です。時々コピーを取るなどして保存しておくと良いと思います。
保険会社へ領収書を郵送するなど、手元から離れる場合にはコピーをとってから送るようにしましょう。
大事なことなので繰り返しますが、とりあえず請求するときまでは全て保管しておくことです。必要に応じて弁護士に相談しましょう。
2.消極損害とは
交通事故で怪我をすると、仕事にも影響が出ることがあります。
仕事を休まなければならなくなったら、その分の収入が減ってしまいます。
事故にあわなければ、本来得られたと予測される利益 のことを消極損害といいます。
具体的には、大きく以下に分かれます。
A. 休業損害 ( 仕事を休んだ分の損害 )
B. 後遺障害慰謝料 ( 障害に対する慰謝料 )
C. 逸失利益 ( 事故で失った利益 )
A.休業損害とは
交通事故で怪我をして、入院や通院などの治療の為に仕事を休んだことにより減ってしまった収入のことを、休業損害といいます。
金額の計算方法は、給料明細や収入証明をもとに、事故日の直近3ヶ月間の給料の平均から計算します。この収入には 各種手当てや賞与も含めることが出来ます。また、出世などに影響して昇給が遅れたら、その分の減収額についても請求することが可能な場合があります。
知っておきたいのは、どの保険を使うかによって貰える額が変わってくるということです。全額認められるものもあれば、「 〇 割りのみ 」 と一部しか受け取れないものもありますので、このあたりもきちんと確認しておきましょう。
また、休業損害とは実際に減少した収入に対して支払われるものなので、もし休業していても、収入が減っていなければ請求することはできません。
たとえば、サラリーマンのような給与所得者であれば、入院や通院をしていても給与が支払われ、収入が減らない人もいます。このような場合は、休業損害を請求することは出来ません。ただし、有給休暇 を使った場合は請求することができます。
また、給料の支給はなかったが、労災保険から給料の6割相当を貰っていたという場合は、残りの4割しか請求する事ができないといった決まりもあります。つまり、受けた損害分しか請求出来ないということです。
通勤途中 や 仕事中 に交通事故にあった場合は、労災保険を使うこともできますが、休業損害を自賠責保険と労災保険の両方からもらうことはできません。
休業損害の計算方法
手順としては、まず休業期間を算出します。医師の診断書に「休養を要す」といったことが書かれていたら、その日数は全て「 休業扱い 」になります。
つまり、入院期間はもちろん退院後の通院治療期間でも、「仕事は休んだ方が良い 」という診断であれば、休業期間とされるということです。
この医師の診断書によって休業期間が確定するので とても重要です。
もし怪我が原因で仕事に差し障りがでるのであれば、医師に相談して診断書に書いてもらいましょう。頼めば余程の事がない限り書いてくれます。
休業期間が確定したら、事故前の「3ヶ月間の収入」を計算します。
そして、その合計額を3ヶ月間の日数で割って、1 日当たりの収入を計算します。 事業所得者は、前年の収入額を365日で割ります。主婦の方は(→主婦の賃金) を参考にしてください。
こうして出された 1 日当たりの収入に、休業期間を乗じたものが 休業損害 の金額となります。
休業損害の計算式
- 3ヶ月分の収入÷3ヶ月の日数=( 事故前の )1 日あたりの収入
- 1日あたりの収入×休業日数=休業損害の金額
休業損害は職種や怪我の部位(上肢下肢など)、程度などによって変わってきます。様々な要素を含めて算出しますので、1日あたりの収入額や休業日数の求め方が複雑になることも多く、損害額の確定に時間がかかることがあります。
詳しく知りたい方は弁護士に相談してみると良いと思います。
B.後遺障害慰謝料とは
最善の治療を続けても「全く事故前のように」とはならないものもあります。
たとえば、
- 手足指の切断
- 麻痺やしびれなどの神経症状
- 関節や骨が変形し腕や足が曲がらない
- 傷跡
医師が治療を続けても現状以上には改善されないと判断した場合は、治療を終了することになり、症状固定(≒治癒)といいます。
いかなる治療を施しても怪我が完全には治らずに、障害という形で残ったものを後遺障害といいます。この後遺障害(症状固定)に対して慰謝料を請求できます。
これを後遺障害慰謝料といいます。
この 後遺障害慰謝料 は 「 入通院慰謝料 」 とは別に計算することになります。
人身事故の場合、怪我で痛い思いをしたことに対する、いわば「迷惑料」として 入通院慰謝料 を請求できますが、後遺障害が残ってしまった場合には、それとは別に 後遺障害慰謝料 を請求できるのです。
しかし、ひとくちに後遺障害と言っても「指が全く動かせない状態」と「何とか動かせるが力が入らない状態」とでは障害の程度が違いますので、障害の重さ加減は以下の法律に基づいて等級(1級~14級)に区分されています。
- 自動車損害賠償保障法
- 労働者災害補償保険法
各等級に細かく分類されていて、それぞれ具体的な症状が記載されています。
この等級によって支払われる慰謝料や逸失利益の金額が決まるので、等級を決めるのはとても重要な作業となります。
どの等級に該当するかを決めるのは損害保険料率算出機構( 損保料率機構 )に属する、自賠責損害調査センター調査事務所が認定します。
ここに後遺障害等級認定の申請をして、等級を決めてもらうことになりますが、申請手続きは、加害者が加入している自賠責保険会社を通すことになります。※個人からの申請は受け付けていません。
加害者が自賠責保険に加入していない場合は、この機関ではなく裁判所が認定します。
申請時には、医師が発行する「 後遺障害診断書 」と、自賠責保険会社にある「 後遺障害補償請求書 」に必要事項を記入して提出します。この他に「 交通事故証明書 」などが必要になる場合があります。
すべての書類を揃え、自賠責保険会社を通して損害保険料率算出機構に依頼します。
等級が決定されるまでの期間は概ね1~2ヶ月ほどです。認定された等級を基に、加害者に損害賠償請求を行います。
認定された等級に納得のいかない場合は、自賠責保険会社に異議の申し立てを行います。
しかし、再度審議されても納得のいく回答が出なかった場合は、裁判所に委ねることになります。つまり、訴訟によって後遺障害等級の判断をしてもらうということです。
訴訟や裁判と聞くと大袈裟に感じてしまう方もいますが、
一度 等級が認定されると、それを覆すことは困難です。
納得がいかない場合はしっかりと主張して泣き寝入りしないことがとても大事です。
後遺障害の時効は、医師から「 後遺障害診断書 」が発行された時点(症状固定日)から2年 です。
C.逸失利益とは
事故による怪我や後遺症、死亡が原因で被害者が本来得られるはずだった将来収入の減少分についての損害 のことを逸失利益といいます。
逸失利益の計算方法は以下の計算式で求められます。
しかし、逸失利益も計算がとても大変なので弁護士へ相談した方が良いと思います。
【 後遺障害の場合 】
- 事故前の収入(※1)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対する係数(※2)
(※1)主婦や幼児、高齢者など、収入を証明できない人については、賃金センサスにより求める。
(※2)ライプニッツ係数またはホフマン係数
【 死亡の場合 】
- 事故前の収入(※3)×生活費控除率×就労可能年数に対する係数(※4)
(※3)主婦や幼児、高齢者など、収入を証明できない人については、賃金センサスにより求める。
(※4)ライプニッツ係数またはホフマン係数
3.慰謝料とは
慰謝料とは交通事故によって被害者が受けた精神的・肉体的苦痛に対する補償のことです。
あるいは(被害者が死亡した場合)被害者の遺族が受けた精神的・肉体的苦痛に対する補償 のことのことです。
4.物損とは
物損の慰謝料については(→物損について) を参考にしてください。
慰謝料の算定基準
交通事故における慰謝料を決めるには、以下の3つの基準があります。
- 自賠責基準 ( 自賠責保険による基準 )
- 任意保険基準 ( 任意保険による基準 )
- 弁護士基準 ( 裁判をした場合の基準 )
どの基準を使うかによって賠償金額が全く変わってきますが、どの基準を採用するかは「誰が示談交渉をしたか」によって決まります。
1.自賠責基準とは
あなた自身が、加害者側の保険会社と交渉した際に提示される賠償額の基準のことです。3基準の中で補償額が一番少ないです。
なぜなら、これは国が被害者救済を目的に定めた保険制度なので、最低限の補償しかされないからです。
自賠責基準が使われるケースは、あなたの加入している保険会社の担当者が、あなたの代わりに加害者側と交渉できない場合(過失割合が10:0など)に使われます。
自賠責基準は自動車損害賠償保障法( 自賠法 )という法律のもとに定められており、正式には自動車損害賠償責任保険支払基準といいます。
2.任意保険基準とは
あなたの代わりに保険会社の担当者同士が交渉をして決定される賠償額の基準のことですが、主には保険会社が任意保険の支払いの際に利用します。(保険会社は他の保険会社と揉めてもメリットはありませんから…)
また、保険会社が提示してくる過失割合は、「 判例タイムズ 」に基づいて提示してきます。
一方的に提示されただけなので、納得できない金額であれば額面通りに受け入れる必要はありません。ただし、自分自身で交渉しようとするのは法律や保険の知識的に難しいと思います。
3.弁護士基準とは
あなたの代わりに弁護士が交渉をすることで決まる賠償額の基準のことです。
3基準の中で一番補償額の高い基準になります。裁判基準・弁護士会基準・日弁連基準などとも言われますが同じことです。
この基準については、裁判になった場合のみ認められると思っている方もいらっしゃいますが、実際に裁判にならなくても請求できます。弁護士が間に入って交渉しただけで認められます。
なぜなら、この基準は損害賠償訴訟に迅速に対応できるように、損害賠償の内容を定型化・定額化することを目的に作られた基準だからです。毎年発生する膨大な数の交通事故の度にいちいち裁判をしていては、時間ばかりかかって不幸な人が増えてしまうからです。少しでも早く解決できるように、同じような事故には過去の判例を基に判断し、速やかに解決できるようにしているのです。
弁護士に依頼するということは、「裁判を前提に話し合う」ということですから、「 裁判をすると過去の判例からこのように判決が出ます。実際に裁判になればこれだけの費用が余分に掛かります。ですから、この額面の賠償金を支払った方がお互いに良いです」という感じに交渉をすることになります。加害者側も、改めて争うメリットよりもデメリットの方が大きい為応じやすく、その分だけ迅速に解決となる場合が多くなります。
判例(過去に揉めた結果出た判決)を基準にするので、補償額が一番高くなるのです。
裁判をすることのできる「弁護士」が間に入るだけで、実際には裁判をしなくてもこの基準で示談できるので、弁護士に依頼することはメリットしかありません。
また、弁護士基準には日弁連交通事故相談センターの交通事故損害額算定基準、損害賠償額算定基準(通称赤本)が全国的に用いられています。
自賠責基準と弁護士基準の金額の差を、一番軽い後遺障害14級で比較すると以下のようになります。
- 自賠責基準 : 320,000 円
- 裁判基準 : 1,100,000 円
実に3.4倍以上もの差があるのですが、知識がないと提示された自賠責基準の金額を鵜呑みにして示談してしまいます。
賠償金額にこれだけの差があることを知ってしまうと、 裁判基準を主張したくなると思います。しかし、どんなに法的知識を身につけても、弁護士に依頼しない限り加害者側の保険会社は裁判基準にはしてくれません。
なぜなら、裁判などの強制力を伴う手続きを取らない限り、法的に正しい賠償を任意に行う義務は保険会社にはないからです。
弁護士に依頼して裁判を前提とした対応を取って、はじめて保険会社も裁判基準での交渉に応じてくれます。
前述の通り「 裁判を前提とする 」のであって、実際に裁判になることは多くないです。
弁護士を間にして交渉を行うことで、ほとんど場合は話がまとまって終わります。
要は「 裁判を前提とする 」というところがポイントなのです。
交通事故にあったときには、いろいろと調べて自分で対処しようと勉強するのは良いことですが、実際に自分で対応するのは想像以上に大変です。やはり一人で悩むよりも、まずは弁護士に一度相談されるのがいいと思います。
一旦示談が成立してしまうと、後で痛みが出ても請求することはできません。
ですから、とりあえずは弁護士に相談をして、今後どのようにすべきかを専門家の意見を聞いたうえで判断することが大切です。ただし、弁護士もさまざまな専門分野に分かれています。交通事故に関する法律相談をするのであれば、交通事故問題の解決に詳しい弁護士へ相談した方が最適なアドバイスを得やすくなります。(→弁護士を頼もう)
また、加入している保険に弁護士費用特約が付いていると、弁護士費用を保険会社に負担してもらえるので安心です。
示談で揉めないのはなぜか?
被害者側は怪我をさせられたわけですから当然一番高い弁護士基準で請求します。しかし、保険会社が示談交渉で提示してくる金額は、一番低い自賠責保険の算定基準に従って出してきます。なぜならビジネスだからです。示談交渉で揉めるのは金額の多寡がほとんどですが、揉めないのは被害者側が「知らないから」です。(→示談注意点)
慰謝料の計算方法
慰謝料は定額化されています。自賠責基準では以下のように定められています。
怪我の場合 ( 自賠責保険 )
自賠責保険による慰謝料基準では、1日 4,300 円です。これに日数を乗じた金額が慰謝料ですが、使用する日数は、「実治療日数(実際に治療に通った日数)の2倍」と、「総治療期間( 治療開始日から治療終了日まで)」を比べて少ない方を使います。
※治療終了日は「治癒」と「中止(後遺症のある症状固定)」では変わります。
たとえば、実治療日数80日、総治療期間120日の場合だと、
- 4,300円×80日×2=688,000円
- 4,300円×120日=516,000 円
- 516,000 円 < 688,000 円
となり、少ない方の 516,000 円 となります。
後遺障害の場合
後遺障害の等級によって変わります。最高で1,600万円です。(第1級で被扶養者がいない場合 )
死亡の場合
- 本人:350 万円
- 遺族:請求権者(被害者の父母、配偶者と子供)の人数により異なります。
請求者1名で550万円、2名で650万円、3名以上で750万円。被害者に被扶養者がいる場合は200万円が加算されます。
※制度は変わることもあります。詳しくは弁護士に相談されることを強くお勧めします。
被害を受けたにもかかわらず、お金の話はしにくいという方もいます。
しかし、どんなに誠意のこもった態度でも、言葉の謝罪だけでは怪我は治りません。精神的にも辛いをした(あるいは今後苦しむ可能性がある)のですから、治療に専念するためにも、きちんと請求して払ってもらいましょう。
また、加害者側になってしまった場合には、負いきれない責任を負わなければならなくなりますから、必ず自動車保険(任意保険)に加入しておきましょう。
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